最近巷で話題になっているFenderのWide Range Humbucker(以降WRH)は、1990年初頭にハワイでボロボロの73年のTelecaster Deluxeを手に入れてからの付き合いになるのでおおよそ30年経ちますね。当時はどういうものかよくわからず使っていましたが、入手のきっかけはやっぱり見た目です。Walnutボディーに黒ピックガードにマウントされたWRHは最高にかっこ良かったんです。
一度このWRHは断線したことがあってリペアを頼んだことがあるのでばらしたことがあります。断線時の差し替えに用に知り合いにもらったスペアのWRHがあるんですが、今回解体して観察することができました。シールド線が短いのでリアに搭載されていたものでしょう、そうなるとDeluxeか2nd GenerationのThinLineですね。なかなか当時物の中身を見ることはないと思います、せっかくなので記録に残したいと思います。
まずは半田を外してメタルカバーを外します。ベージュのボビンにCUNIFEのポールピースが互い違いに3個ずつ裏返しに搭載されています。シールド線の赤いホットがボビンの端子に繋がっているのが見えます。ボビンの下にプレートが入ってました。ロウ漬けされた気配は有りません。
洋書のテレキャスター解説書にはフロント、リア共に以下の通りスペックが記載されています。
Wire: 42GA
Turns: 10000(Average) Both coils
Magnet: Cunife
DC Resistance: 10.6kΩ Both Coils
その説明にはSeth LoversはWRHの開発にあたりGibsonのハムバッカーよりもFenderに合うようブライトで高域にピークを持たせることに執着しマグネタイズドポールピースを使用したと記載があります、ここで登場するのがCunife(Copper-Nickel-Ferrite)といわれる合金マグネットで、それをねじ切り加工したポールピースマグネットは一般的なバーマグネットより磁束場が狭くなるため周波数特性が低く、より高域寄りのピックアップになるようです。
専門的なことはよくわかりませんがこれがWRHの音を構成する要素なんですね。
さあ手持ちの物はどうでしょう?といってもコイルの抵抗値だけしか測れませんが...
抵抗値は室温で変わるので念のため室温21℃です。
結果は左右のボビン共に5.24kΩで合計10.48kΩ、綺麗に左右で値が同じでした、こんなことってあるんですね。ここまできれいに合わせる必要はないのでただの偶然だと思いますが、
そして70年代当時このWRHは全て1MΩのPot(VolとTone共に)との組み合わせでマウントされています。ご存じの通り値の大きなPotほど高域成分がアースに落ちにくく失われにくい特性があります。以下は73年のTelecaster Deluxeのポット周り。すべてオリジナルの1MΩPotが使用されています。
そう、PickupとPotにもFenderらしさを演出する秘密があったんですね。WRHをFenderにマウントする場合1MΩPotは必然です。勿論好みがあるので一般的なハムバッカーのように500kΩもありです。ただその場合WRHらしさは出ないかもしれませんね。
おまけになりますが現行のG&BのWRHも計測してみました。これはSquireのStarcasterに搭載されているものですが、多分現行のFenderのCunife以外のWRHはすべてこれじゃないかと思います。
計測したところFrontとRearで以下の通り違いがありました。抵抗値だけを見ると巻き数を抑えて音抜けを良くしているのかなと思います。こちらも当然ですが1MΩポットとの組み合わせると少し本家のOriginal WRHのようなワイドレンジ感は近づきます。気になる方は是非試してみてください。
室温20度
Front: 7.76kΩ(3.97k+3.8k)
Rear: 8.47kΩ (4.28+4.22)
ということでなかなか面白い観察ができました。